この記事でお伝えしたいこと
- 巻き肩は、肩が前に見えるという位置だけで「悪い姿勢」「治すべき異常」と判断できるものではありません
- 当院では、肩の位置だけでなく、そこから胸椎・胸郭・肩甲骨が必要に応じて動けるかを確認します
- 「巻き肩だから治す」のではなく、その状態が現在の症状や動作と実際に関係しているかを見て施術判断を行います
はじめに
「巻き肩なので直してほしいです」
「肩が前に出ているので、もっと真横に来るようにしたいです」
施術をしていると、このようなご相談を受けることがあります。
ところが実際に身体を確認してみると、私から見るとそれほど不自然とは思わない範囲の肩の位置であることも少なくありません。
もちろん、私は「巻き肩は悪くない」「肩が前にあっても症状とは関係ない」と考えているわけではありません。
一方で、
「肩が前にある=悪い姿勢」
「巻き肩=治すべき異常」
と、その位置だけで判断するのも単純すぎると考えています。
当院が確認したいのは、肩がどこにあるかだけではありません。
その位置から必要に応じて動けるのか。
そして、その状態が現在の症状や動作制限と実際に関係しているのか。
今回は、私が巻き肩をどのように見ているのか、約20年の臨床経験を踏まえてお話しします。
そもそも肩は「身体の真横」にあるのが正解なのか?
「肩が前に出ていますね」
そう言われると、本来は肩が身体の真横にあり、そこから前へズレてしまったようなイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、人間の身体はそのような単純な構造ではありません。
胸椎には、もともと後ろへ緩やかに丸くなる生理的な後弯があります。
胸郭にも丸みがあります。
そして肩甲骨は、平らな壁に貼り付いている板のような骨ではありません。丸みを持った胸郭の上に位置しています。
そのため、肩や肩甲骨が多少前方に位置して見えること自体は、それだけで「正しい位置からズレている」と判断できるものではないと私は考えています。
実際の臨床でも、患者さんご本人は「かなり巻き肩だ」と気にされていても、私から見ると正常範囲と思われることがあります。
もちろん位置も身体を見るうえでの一つの情報です。
ただ、「肩が真横にあるか、前にあるか」という一つの基準だけで、正常・異常を決めることはしていません。
姿勢そのものについてお悩みの方には、「姿勢改善・姿勢を良くしたい」のページで、当院の施術や身体の見方について詳しくご紹介しています。
「巻き肩」という一つの言葉に、違う状態が混ざっている
そもそも「巻き肩」という言葉で表現されている状態は、一つではありません。
例えば、
・胸椎の後弯
・肩甲骨の外転
・肩甲骨の前傾や内旋
・上腕骨の内旋
・頭部が前方に位置している状態
・長時間同じ姿勢を続けたことによる可動性の低下
・単純に肩が前に見えるという外見上の印象
など、いくつもの要素が「巻き肩」という一つの言葉の中に混在しています。
これらは同じものではありません。
ところが「巻き肩」という言葉だけで、
「胸の筋肉が縮んでいる」
「背中の筋肉が弱い」
「肩甲骨が正しい位置から外れている」
などと、一つの原因にまとめて説明されることがあります。
私は、これは少し単純化しすぎていると感じています。
「巻き肩」という言葉は、自分の姿勢を表現したり、患者さんと身体の状態について話したりするうえでは便利な言葉です。
ただし、「巻き肩」という言葉だけでは、実際にその人の身体で何が起きているのかまでは分かりません。
だからこそ当院では、「巻き肩ですね」で身体の評価を終わらせず、その中身をもう少し細かく確認していきます。
私が気になるのは「丸いこと」より「そこから動けないこと」
胸椎は、もともと軽く後ろへ丸くなる構造です。
そのため私は、
「胸椎が丸い=猫背=悪い」
「胸を張って真っすぐにしている=良い姿勢」
とは考えていません。
もちろん、身体がどのような位置にあるかは確認します。
ただ、それと同じくらい確認したいのが、
「その位置から必要に応じて動けるか」
ということです。
例えば、
・丸まった位置から伸びることができるか
・反対に、伸びた位置から丸まることができるか
・左右へ回旋できるか
・呼吸に合わせて胸郭の形が変化するか
・腕の動きに合わせて胸郭や肩甲骨が動けるか
・長時間同じ姿勢を取ったあと、別の姿勢へ自然に移れるか
といったことを確認します。
軽く丸まっていることそのものよりも、丸まったまま伸びられない、あるいは伸びたまま丸まれないなど、同じ形から抜け出せなくなっている状態の方が、私は臨床では気になります。
つまり、「位置を見ない」のではなく、位置を確認したうえで、「そこから動けるか」を見る。
私が巻き肩を確認するときに大切にしているのは、この「可変性」です。
「肩甲骨を寄せ続ける」が正解とは限らない
巻き肩を気にしている方の中には、
「胸を張るようにしています」
「肩甲骨をいつも後ろへ寄せています」
「肩が前に出ないように意識しています」
という方もいます。
しかし、肩甲骨は本来、一つの場所に固定しておくための骨ではありません。
腕の動きに合わせて、
- 外転、内転
- 上方回旋、下方回旋
- 前傾、後傾
- 内旋、外旋
などを組み合わせながら動いています。
例えば腕を前へ伸ばすときには、肩甲骨も外側へ動く必要があります。
腕を上へ挙げていくときにも、肩甲骨は位置や向きを変えながら動きます。
そう考えると、
「巻き肩だから肩甲骨を後ろへ寄せる」
という方法を、いつでも正解にすることには疑問があります。
肩甲骨を後ろへ寄せ続けることも、見方を変えれば、結局は一方向へ身体を固定していることになるからです。
もちろん、肩甲骨を寄せる動きそのものが悪いわけではありません。
必要なのは、「後ろにあること」ではなく、腕の動きに合わせて必要な方向へ動けることです。
「良い姿勢」を作ろうとして、身体を固めない
巻き肩を気にするあまり、
「肩をもっと後ろへ」
「胸をもっと張って」
「この姿勢を崩さないように」
と、一日中意識している方もいます。
特に、私から見ると正常範囲と思われる肩の位置を「もっと真横にしなければ」と考え、必要以上に胸を張った姿勢を維持しようとしているケースがあります。
私は、このような姿勢の取り方を積極的には勧めていません。
胸郭は、呼吸に伴って常に形を変えています。
そのため、必要以上に胸を張った状態を維持しようとして身体を固めてしまえば、自然な胸郭の動きをかえって妨げているのではないか、と臨床上感じることがあります。
これは「胸を張ると呼吸が悪くなる」という意味ではありません。
一時的に胸を張ることも、姿勢を変えることも、身体が持っている大切な動きの一つです。
私が避けたいのは、
「良い姿勢を作ろうとして、その姿勢から動けなくなること」
です。
丸まることもできる。
伸びることもできる。
腕の動きに合わせて肩甲骨も胸郭も動く。
一つの「正しい姿勢」に身体を押し込むよりも、必要に応じて形を変えられることを大切にしています。
良い姿勢を意識することと、身体を一つの姿勢に固定することは同じではありません。姿勢と肩こりについての当院の考え方は、「良い姿勢を意識しているのに肩こりが良くならないのはなぜ?当院が大切にしている考え方」でも詳しくお話ししています。
では、当院は「巻き肩」の何を見ているのか
ここまで書くと、
「では、巻き肩は気にしなくていいのですか?」
と思われるかもしれません。
そういう意味でもありません。
肩が前にあることが、その方の身体の状態を考えるうえで重要な情報になることもあります。
例えば当院では、
- 胸椎の伸展や回旋が行えるか
- 肩甲骨が必要に応じて動けるか
- 腕を上げたときに肩甲骨がどのように動くか
- 胸郭が呼吸や動作に合わせて動くか
- 左右差と症状や動作制限が一致しているか
- 同じ姿勢から抜け出しにくくなっていないか
- 姿勢や身体の使い方を変えたとき、症状や動作に実際の変化が出るか
などを確認します。
その中で、肩の前方化と現在の症状や動作との関連が考えられるのであれば、それも施術判断の材料の一つにします。
姿勢だけでなく、肩こりや腰痛など実際の症状も含めて身体を確認した例として、「30代 女性 長年の猫背とそれに伴う腰痛、肩こり」の症例もご紹介しています。
つまり当院は、
「巻き肩だから治す」
とは考えていません。
「肩が前にある状態から、必要に応じて動けるのか」
「その状態が、現在の症状や動作と実際に関係しているのか」
を確認します。
巻き肩という見た目だけでは、それが治すべき異常なのか、症状の原因なのかまでは判断できません。
肩がどこにあるかも見る。
そして、そこからどう動けるかも見る。
「位置だけでなく、可変性と機能を見る」
これが、当院が巻き肩を見るときに大切にしている考え方です。
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